怪人はベローチェにいる
2025.06.15-06.21
06.15(日)
日曜だけど、午後から貸し切りイベントで無駄。
楽しかった。
3時間貸し切りというのも時間的にちょうどよい。
前々から音楽だけでなく、カルチャー的なくだらないイベントをやれる、新宿ロフトプラスワンみたいな場所になったらいいなと思っていたのだが、今日のは実質、トークショーみたいなイベントで、無駄と素晴らしくマッチすることがわかった。こういう企画、定期的にぶち込んでいきたい。
昨夜から朝方にかけて激烈に雨が降り注ぎ、正午くらいに突然夏がやってきてしまった。
06.16(月)
連日の無駄。
今日は月に1度の月曜無駄営業(通称げつむだ)。
月に一度は必ずここに来て遊んでくれる人たちがいる。楽器弾いたり、曲を合わせたり、音楽雑談からゴシップまでケラケラ話したり。40代〜60代までの大人たちが学生のような顔をして集う部室のようになっていて、それを毎月、カウンターの内側から眺めるのがとてもファンシーで、好きだ。
ありがたいことに満員御礼。
人生は良くも悪くも直線的には進まず、宇宙の原則に則って、螺旋を描きながら進んでいくので、「あの頃」の感じが丸ごとアップデートされて、あの日あの時あの場所じゃあない所で、再び出会える瞬間がある。そのたびに、時間旅行者(タイムリーパー)として生きているわたしには、切ないような嬉しいような、それでいてとても暖かい気持ちになるのだ。
06.17(火)
昼。
コワーキングスペースにて、たまたま友人と遭遇したので、談笑。
そのまま、一緒にずっと行きたかった隣町のとろろ専門店へ。
とろろの原料である山芋は自然薯とも呼ばれるが、自然薯というのは自然という漢字が入っているにも関わらず、実は人間によって栽培されている農作物であり、山に自生しているものは「やまのいも」という名前を冠しているという。粘度の高いトリビアを仕入れながら、マグロ丼にやまのいも汁をかけたものを、ずるり、とかきこむ。美味美味シイ。
”やまのいも”はもちろん美味しいのだが、ここでは店主が自ら山に入り、やまのいもだけでなく、様々な種子、樹皮、根、山菜、などをかき集めており、それらを酒で漬けて多種多様な薬膳酒を作っていた。
中でも目をひいたのは”またたび”の酒。山で採ってきた”またたび”を漬けた酒なのだが、選ばれし人間はアルコールではなく、”またたび”の成分が効いてしまい、様子がおかしくなると、店主が笑っていた。
たまたま選ばれし人間に”またたび”が効いているだけなのか。実は、まったくその逆で、”またたび”が効いてしまうのは、人間に長年化けている猫なのではないか。この酒は、人間に紛れて生活している「化け猫」を炙り出す、「化け猫チェッカー」なのではないか。真剣な顔をして店主に尋ねるわたし。
先刻まで、愛想良く色々と話をしてくれた店主は、まったくの無表情になり、乾いたザラザラとした、声ともつかない声で
「ハハハ」
と、一言だけ言って、それっきり。
06.18(水)
梅雨前線が消滅したという気象ニュースを見る。
7月になればまた復活するかもしれないが、復活するかどうかはまだわからず、復活しない場合は、先週末が梅雨明けとなるらしい。フィクションみたいな世界観だけれど、地球は人類が生まれるずっと前から蠢いていて、それに比べて、はるかに短い、人の一生の中で溜まった常識なんていうのは、通用しないのがふつうなのだろう。自然とはまさに宇宙であり、宇宙とはまさに神であり、俺もお前もその一部である。
そんなことはお構いなしに、はじめてのプール授業で興奮して帰宅してきた娘。
顔まで水につけられる人らのチームに振り分けられて、いろいろバシャバシャとやってとても楽しかったとのこと。海辺の町で育っているので、水泳は好きでいてほしい。
夜。
本物の芸者が淹れたゲイシャコーヒーを呑む。
06.19(木)
一日に10回くらいは癇癪を起こすものの、そこからの立ち直りも幾分早くなってきたように見える娘。今日は下校後もテンションが高く100点のテスト答案などを見せびらかし、悦に浸っていた。
「♪ママちゃん、おててがモチモチしている〜、だけど〜、怒ると怖いよ、ウェーンウェン」
という自作の小唄を諳んじて踊っているくらいには、機嫌が良い。
そんなメンヘラ女児からのリクエストで、今夜の夕飯はパパ製ハンバーグ。
一人暮らしの時代から無数に作ってきたので目をつむっても作れるのだが、妻は言うに及ばず娘も好きでいてくれるらしい。
家族三人で5バーグ完食。
06.20(金)
白夜なのかな。
と思うくらい、昼が長い。ずっと明るい。
金曜日は19時に店を開けるのだけれど、今日は正直20時くらいまでほんのり明るかった気がする。明日は夏至だけれど、これほどまで昼って長かったろうか。
案の定、早い時間は人の出がほとんどなく、21時過ぎにポツポツと入店。なぜか旅行中の外国人が続々と集まってきたりする不思議な夜であった。先週に引き続き、23時ころにピーク。
というか、ふつうに夏バテ。
06.21(土)
旧友のワンマンライブショウに誘われ、四ッ谷へ。
むかしから、同じような昭和、歌謡曲、スイング趣味で、藤圭子が好きで、レコードをかける呑み屋をやっている女。20代の頃に、新宿でたまたま出会い、親しくしていたその友達のライブを、10年ぶりくらいに観た。わたしが東京で歌謡バンドをやっていた頃、合同でライブイベントなどもやっていたが、その頃に比べると、楽曲もパフォーマンスも格段にレベルが上がっていて、感動した。
思えば、三年か四年くらい前。わたしが東京から小田原へ引っ越し、すっかりご無沙汰になっていた彼女の店に行った時。ゴールデン街にある、その狭い店のカウンターで
「あんたはいい詩、書くんだから、唄わなきゃ駄目よ」
「一緒にちゃんとシンガーソングライターやろうよ」
と、ゴールデン街はおろか、音楽からもすっかりご無沙汰していたわたしに何気ない声をかけてくれたのも彼女であった。
「知らなかった。俺らはシンガーソングライターだったのか」
と、その夜はふざけて笑っていたのだが、自分の中に燻るものはあったのかもしれない。なんの因果か、その後すぐに、わたしも自分の呑み屋を持つことになり、そこで出会った、才能豊かな人々との縁で、再び曲を作りはじめ、今年はレコードも出して、また歌を唄えるようになった。
望むにせよ望まぬにせよ、色んな縁の繋がりや連なりによって、我々は前に進んでいる。
帰り道、懐かしのゴールデン街を散歩しようと思ったが、止めにした。彼女が唄うように、歌舞伎町は雨が似合うが、生憎、今夜は降りそうにない。
BRAKE ON THROUGH TO THE OTHERSIDE.