蝉が騒ぎ出す前に
2025.05.18-05.25
05.18(日)
前日の夜遊びが身体にこたえ、子よりも早く布団IN。
異様に蒸し暑い空間から、必死になって抜け出そうと右往左往している羽虫になったような夢を見て、額に汗をかいて起きた。すると、
隣で娘がさめざめと泣いている。
どうしたのか、と訝しがる妻に対して
「明日の授業で友達の名前を言い合うイベント(?)があり、わたしは最近仲良くなった数人しか覚えておらず、ちゃんと他の人の名を言えるのか不安であり、その不安は今日の昼までは、バアバ宅に遊びに行っていたことで忘れていたのだが、いまこうしてお布団に入り、朝になれば学校であるという事実を前にすると、突如としてリアリティが増し、それで、とても不安で、泣いている」
という内容のことを、10分弱かけて説明していた。暗がりで。
妻は
「わたしなど、小学校の時どころか、今ですら人の名前を覚えられない。名のわからぬ人とコミュニケーションを取らねばならないときは、大体『ねえねえ、』と、呼びかければ済む。案ずるな。」
という実用的かつ長年の実体験に基づいた効果的なアドヴァイスをしており、娘は安心したのか、ケラケラ笑いだして、その声を背中で聞きながら、わたしはまたすぐ夢世界へと、落ちていった。
05.19(月)
午後。
娘が学校から帰宅後、郊外のロピアという大型スーパーに家族で行く。
先月、日曜日にはじめて行ったのだけれど、その多様な商品ラインナップと価格に我々は興奮し、鶏の肉、鶏の肉を揚げて冷凍したものの袋詰、各種野菜、玉ねぎ、菓子類、餃子を冷凍したもの、牛の肉に甘辛く味付けしたパック、鶏の手羽元の袋詰、などをわんさか買ったのだった。ひと月ぶん、家食を十分にまかなえるレヴェルの副菜たちも、丁度、ひと月を経過し少なくなってきたということで、本日再訪。
あれやこれや買ったついでに、「サーモンはみ出し巻」という感じのネーミングの巻物4巻セットを見つける。名は体を表すというが、まんまその通り、異常にファットなサーモンが、スティックというかちょっとした小板状になっており、海苔巻きで巻かれている。巻かれているのだけれど、文字通りやはり、やはりその異常なサイズのせいで、7割型は海苔巻きの外へサーモンが剥き出しになっている。
帰宅後、夕飯がわりに4本入のはみ出し巻にむしゃぶりついたが、2本を超えた時点で、そのファットなサーモンの脂身は、満腹中枢を埋め尽くしにきた。
身体中から生鮭の匂いがする。
サーモンの怪物と化したまま、夜は月に1度の月曜日営業。
入から終まで満員御礼でシャケの時間は、あっという間に過ぎ去った。
05.20(火)
夕飯までの時間を持て余し、娘と散歩。強風の中。
ふだんは学校生活について、誰と遊んだのかや、友人の名前など、親がとくに気になる事柄に関してまったく秘密主義を貫いている彼女だが、一緒に目的地も決めずにぶらぶら歩いているときは、なんだかポツリポツリと話してくれる。
歩いていると脳が、お話したくなるモードに入るのだろう、わたしもまったく同じタイプの人間で、誰かと電話しているときは大抵、家の中をウロウロと歩き回っている。
明日は、「グループになって先生の名前をインタビューして聞いてくる」というイヴェントが行われる(やすみじかんで!)ということで、それを非常に楽しみにしているという話。一昨日、人の名前を覚えられない自分の性質について思い悩み、サメザメと泣いていたのだが、ともだちと一緒になって何かをやるということについてはとても楽しみにしている。同じグループの子の名前は(男子1名を除いて)ぜんぶ覚えている模様。
05.21(水)
ちょっと夜ふかしが続いていたせいか、死んだように爆睡して目醒めた朝。Like a DEADMAN。夢すら覚えていない。蘇ったようにすっきりと目が覚め、スマートウォッチの睡眠スコアも過去最高かな?というレベルの98(非常に良い)を示している。
すがすがしい気分でモーニング・コーヒーを頂いておりますと、ビン・缶ゴミを捨てて帰ってきた妻が、そういえば。という感じの軽いノリで、
「夜、なかなか寝付けなかったから聞いてたけど、あなた寝ている時、呼吸止まっているよ、たまに。」
「え」
「時折、息苦しそうにフアワアアアアって息継ぎしている」
それから一日、なんとなく息苦しさを感じている。
05.22(木)
午後は娘のピアノレッスンへ付添い。
昨年度までは親も一緒にレッスンルームに入室してピアノの進捗を見守っていたのだが、4月のはじめ、「パパやママは外で待っていて。」と仰るようになり、わたしはレッスンルームの前に置かれたパイプ椅子にて待機。
「スパイのためのハンドブック」という刺激的な文庫本を読んで待つ。
防音扉から漏れ聞こえてくる音色が、きちんとピアノのメロディーになっている。(自宅でまったく練習している様子がないのに)、いったいどこでスキルを磨いているのだろうか。
終了後に、先生曰く、ト音記号をパーフェクトにマスターしている。よく練習してますね、というお言葉。
得意げな表情の女児。
05.23(金)
夜の営業も満員御礼。
営業後に、近隣の店が新規オープンラッシュだったので、挨拶まわりへ。
多様な店がつぎつぎと集まり、町がどんどん息づいてきている。
しらふの状態で、酔っ払いたちと接する仕事をしているので、酒に酔い(翌日には)そのときの記憶を失う人らと会話をすることが多いのだが、いま俺が話をしているこの生命体は、いったい誰なのだろうか。本当に〇〇さんで合っているのだろうか、という疑問を抱くことがある。だって何時間後には会話の内容はおろか、下手するとハシゴ酒の途中でわたしに会ったことすら、覚えていない可能性があるのだから。記憶だけとはいわないが、「連続した記憶」は存在を証明する数少ない、鍵である。
人はその鍵をわざと見失うために、だからこそ、酒を飲む。
05.24(土)
完全に風邪。
微熱だが、咳と全身がだるい。関節が指の先まで軋んでいる。
早めに風呂に入り、寝室でゴロゴロしていると、娘がやってきて
「だいじょうぶかな?」
と呟くので、子の優しさに感涙しそうになっていると、娘は一度リビングへ戻り、再度、マスクを完全防備して登場。
「うつると学校行けなくなって困るから」
そういう意味での「だいじょうぶかな?」だったのか。
マスクして寝ると息苦しいでしょ。
パパは、自分の部屋で布団持ってって寝るね。
「ありがとう〜!」
ということで、ひさしぶりに自部屋で植物に囲まれながら爆睡を決めた。
BRAKE ON THROUGH TO THE OTHERSIDE.